Society5.0を拓くエンジニア対談

Society5.0を拓くエンジニア対談 Society5.0を拓くエンジニア対談 現状に満足したら成長は止まる。。 好奇心を持ってこそエンジニアは面白い。。
現状に満足したら成長は止まる。好奇心を持ってこそエンジニアは面白い。

  • 小川 雲龍 KOKUSAI ELECTRIC 常務執行役員 小川 雲龍 KOKUSAI ELECTRIC 常務執行役員 小川 雲龍 KOKUSAI ELECTRIC 常務執行役員 小川 雲龍 KOKUSAI ELECTRIC 常務執行役員
  • 高橋 智隆 ロボ・ガレージ代表取締役社長 ロボットクリエーター 高橋 智隆 ロボ・ガレージ代表取締役社長 ロボットクリエーター 高橋 智隆 ロボ・ガレージ代表取締役社長 ロボットクリエーター 高橋 智隆 ロボ・ガレージ代表取締役社長 ロボットクリエーター

ITの驚異的な進化が、社会システムや産業から人々の暮らしや働き方までも大きく変えつつある。さらに、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を融合したシステムで、経済発展と社会的課題の解決を両立させる「Society5.0」の到来が予測される中、その一翼を担うエンジニアにはどんな覚悟と挑戦が求められるのか。KOKUSAI ELECTRIC常務の小川とコミュニケーションロボットの第一人者である高橋智隆氏の、白熱のオンライン対談が実現した。

『鉄腕アトム』がロボット開発の原点
京大在学中に商品化し、ベンチャーを起業

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小川自律移動型ロボットの性能を競うロボカップ世界大会で5連覇された高橋さんとの対談とあって、今日が来るのが楽しみでした。

高橋こちらこそよろしくお願いします。

小川まず、ロボットに興味を持たれたきっかけは何だったんですか。

高橋子どもの頃、家にあった『鉄腕アトム』の漫画を読んで、ロボット開発の科学者になりたいなって思ったんですね。その後も、プラモデルや魚釣りの疑似餌など、いろんなものをつくって遊ぶのが好きで、京都大学で本格的にロボットの勉強を始めました。

小川入学当初からもう二足歩行ロボットの開発を始め、それがロボカップにもつながっていくというところがすごい。

高橋個人的に製作したロボットを玩具メーカーに売り込み、商品化が実現しました。その延長線上で卒業時の2003年、学内のインキュベーション施設で「ロボ・ガレージ」を創業し、今日に至っています。会社は現在も僕一人で、ロボットの研究、設計、デザイン、プロトタイプ製作のすべてを手がけ、企業と一緒に商品化をめざすスタイルを取っています。

小川ロボカップ世界大会での5連覇は2004年からですね。

高橋はい。大会はロボット技術の向上を目的にしており、成績優秀チームはその技術情報を公開しなければなりません。初めの頃、我々のロボットにあった圧倒的なアドバンテージが縮まっていったのは仕方ありませんが、機械の構成からちょっとしたアイデアまで他のチームも似通ってきて、ロボット技術が同じ方向に収束しそうになってつまらないと思ったので、2008年の5連覇をひとつの区切りにしました。

小川私は中国遼寧省の出身で、大学卒業後、大連市内の国営企業で10年間、テレビ用ブラウン管の開発、製造に携わっていました。将来、プラズマテレビの時代が来るのではと感じ、その技術を学ぶため1992年、東北大学の佐藤教授の門をたたきました。しかし、学び始めて間もなく、テレビは液晶が主流になると気づき、プラズマの研究分野を半導体製造装置のウェーハ処理へ切り換えたのが縁で、当社の前身である国際電気に入社したわけです。

高橋そうでしたか。それで帰国せず、自身の研究を活かす道を選ばれたのですね。

小川はい。幸い、大学に助手として残って研究を続けることができ、その頃、国際電気も半導体製造用のプラズマ装置を開発する計画を温めていたことと、さらには当時の社長が佐藤研究室の出身という偶然も重なりました。

初仕事で設計から販売まで一貫して担当
国際的なエンジニア志望にうってつけの環境

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高橋ご縁って大切ですね。入社後、開発はうまくいきましたか。

小川最初は失敗の連続でした。大学での研究成果を製品化まで持っていく過程でかなり苦労しました。さらに、製品化ができれば客先への展開はスムーズにいくだろうと期待していましたが、それもそう簡単にはいかず、1年ぐらい設計開発をやりながら専門営業部長を兼任し、開発した製品の売り込みも行いました。それだけに、数億円もする製品を初めてお客様に買っていただいた時の興奮と感動は、今も昨日のことのように覚えています。開発から販売までのワンサイクルを担当した達成感は今も忘れられませんね。

高橋基礎研究だけでなく設計や営業まで経験することが、エンジニアにはとても重要だと感じます。自分の専門性を深めてユニークさを養うとともに、それがどんな分野で活用され価値を持つかを俯瞰できないと、イノベーションを起こすような開発はできないからです。優秀なエンジニアほど、自分の専門分野以外、見えなくなりがちなだけに、ミクロ、マクロ両方の視点を常に忘れないようにしなくてはなりませんね。

小川まったく同感です。当社製品の約90%は海外へ輸出され、大手半導体デバイスメーカー7社で全体の約70%を占めています。このため、当社エンジニアは海外出張に出かけることが多く、お客様との会話を通して世界の先端をいく技術のトレンドを肌で感じたり、世界的な企業で働く社員の高いモチベーションに刺激を受けたりする機会に恵まれています。国際的に活躍するエンジニア志望の人にとって、当社はとても魅力的な環境だと思っているんです。

時代の先を読むキーワードは「
判断で大切になる技術リテラシー

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高橋中国ご出身の小川さんが、まさにそのロールモデルですよ。半導体はITのインフラとも言われますが、その製造装置メーカーである御社にはどんなことが求められ、今後、何に挑戦していくのですか。

小川半導体はすごいスピードで進化しています。例えば、デバイスの小型化やコスト削減で脚光を浴びる最先端の3D-NANDフラッシュメモリの場合、ナノレベルの微細で精緻な成膜加工技術が要求されます。一般に、われわれの製品開発スパンは3年から5年で、その製品で競合他社と勝負して負けたらやり直しはきかず、次の世代の製品で挽回するしかありません。

高橋厳しい世界ですね。時代の変化を読み違えると致命傷になります。

小川私は技術開発とマーケティングを担当しています。マーケティングは結局、「先を読む仕事」だと思うのです。中国の古典の『易経』には、世の中で変わらないものは何ひとつないと説く一方、その中でも決して変わらないものがあり、それさえ見つけられれば先を読むことができると書いています。そのヒントとして、“きざし”と読む2つの字を紹介しています。

高橋どんな字ですか。

小川「萌」と「兆」で、「萌」のほうは若葉が萌えれば誰でも春が来たと気づけます。しかし、「兆」は見ただけでは分からず、さまざまな現象や兆候を総合的に分析して初めて気づけるというものです。製品サイクルのピークが3年から4年と短い半導体の分野でも、「兆」の観察を怠らなければ決して先を読めないことはないんです。

高橋「兆」で、もうひとつ大切にしたいと僕が思うのは技術リテラシーです。iPodにハードディスクが搭載された頃、小型ハードディスク市場を有望視する人が多数いました。けれど、僕はハードディスクみたいなメカ的な部品は必ず壊れるし、やがてコスト的、速度的にもフラッシュメモリに取って代わられると直感しました。これって、技術に関する基礎的なリテラシーから生まれる嗅覚なんだと思います。

スマホがコミュニケーションロボに代わる
単なる道具から愛着と信頼関係のツールに

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小川ご承知のように、フラッシュメモリは日本企業が発明したデバイスでしたが、韓国企業が有償で技術供与を受けて実用化を図り、急成長するマーケットのリーダーに躍り出ました。この事例からも、先の市場を読む力がいかに大事であるかが明らかです。高橋さんにはロボットの未来がどうなるかを、ぜひうかがいたいですね。

高橋いま手に持っているのが、シャープと共同開発したモバイル型ロボット端末「RoBoHoN(ロボホン)」です。身長が約20センチ、体重が約400グラムで、通話やメール、カメラ機能だけでなく、歩行や起き上がり、ダンスや歌、音声対話、顔認識などができます。1人1台、スマートフォンのようにポケットに突っ込んで持ち歩けることをコンセプトにしています。

小川素朴な質問ですが、現在、世界中で使われるスマートフォンが、このようなロボットに置き換わる時代がやって来るということですか。

高橋僕は、そう遠くないと見ています。スマートフォンの分野が成熟期、飽和期に達し、付随するソフトウェアやサービスもアイデアが出尽くした感があるからです。そうなると、まったく新しいハードウェアが登場するのは、ある意味、必然のことだと思います。

小川そのキーワードがコミュニケーションであると、高橋さんはいろんな場所で発言されていますね。

高橋はい。スマートフォンもコミュニケーションのツールですが、あくまでも誰かとのコミュニ―ケーションを媒介するための道具でしかありません。次世代の情報端末は、使う人がその端末自体に愛着を持って語りかけ、信頼関係まで結べるもの、つまりコミュニケーションロボットであると感じています。

小川その場合、ロボットの大きさというのは重要な要素になりますか。

高橋大きいと持ち歩けませんし、安全性の問題が出てきます。それに等身大だと人間と同等の知性が求められ、現状の技術だと賢くないように見えてしまいます。対して、小さいロボットには期待値が低いので、「ちっちゃい割に賢い、役に立つ」と加点法で評価してもらえる。ただ、スマートフォンのユーザーがこのRoBoHoNに一足飛びに移行するかとなると、正直難しい。それで、その中間、もっとスマートフォンに近いロボットを開発しているところです。

AIを使って装置のメンテナンスを自己診断
コミュニケーションロボの可能性は付加価値次第

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小川半導体業界でも、ロボット化や自動化が挑戦課題の柱となっています。製造現場で活躍するロボットは、単に部品を運んでセッティングするだけでなく、周りの状況を自ら判断して「進む」「止まる」をコントロールし、性能と安全を高い次元で両立できるように。また、半導体製造装置でも、機械学習機能を搭載して装置のコンディションを自ら診断してメンテナンス時期などを知らせることで、メンテナンス周期を長くでき、装置の稼働率アップとメンテナンスコスト削減により、生産性を大幅に向上させることができます。

高橋半導体業界のユーザーはプロであり、高いレベルの製品を求める以上、ある程度、価格が高くても受け入れてくれるのでしょうね。一方、僕が手がけるコミュニケーションロボットのユーザーは素人で、払える金額にも自ずと限度があります。同時に、何か新しい面白そうなジャンルが見つかると、世界中から製品があふれるように投入されます。そのほとんどが「安かろう、悪かろう」的なもので、ユーザーがうんざりして、結局、市場がうまく育たない危険性がある。ロボットの価値をどうやって上げていくか、ここがいま非常に悩ましい点と言えます。

小川コミュニケーションロボットが認知症患者の症状緩和に有効であるとの論文を読んだことがあります。一人暮らしの高齢者や未婚者も増えていますから、今後、さまざまな付加価値をつけていくことでコミュニケーションロボットの市場は大きく広がる可能性があると思いますよ。

高橋確かに、ユーザー層は広範で使い方もさまざまですから、たくさんの方がふれられる環境や使いたくなるサービスをつくっていきたいと考えています。

自分自身の軸で独創的なアイデアを出す。
そのために自分の感性で選ぶ習慣を

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小川政府が発表した未来社会のコンセプト「Society5.0」では、IoTですべての人とモノがつながり、人工知能の進化とロボットや自動走行車などの新技術で、社会が抱えるさまざまな問題を解決するとの方向性を示しています。こういう時代を生き抜くエンジニアには何が求められるでしょうか。

高橋先ほど紹介したミクロ、マクロの視点に加えて、自分自身の軸を大切にして、独創的で突拍子もないようなアイデアを出すことですかね。マーケットニーズに合わせて仕事をするだけでは、いつまでたってもイニシアティブを取ることはできません。そのためには、個人的なマイブームだったり、自分の主観的な視点で面白いものや好きなことを追求したりすることです。

小川私は、好奇心のない人はエンジニアに向いていないと思うんです。自分の好きなことで起業までできる人は少数で、企業などに入って社会人生活をスタートさせるのが一般的です。仮に、配属先の仕事が好きでなくても、その仕事をいかに楽しくできるかが重要であり、それは本人の好奇心次第ですね。

高橋言われたことを、言われた通りやったってつまらないですよ。僕の場合も偶然に出合ったテーマを掘り下げ、自分なりに試行錯誤していくうちにさらに興味がわき、新しいアイデアが出てきました。

小川私も、人から言われた通りには絶対にやらないんです。何か自分のアイデアを入れて挑戦していくうちに、他人の仕事でなく自分の仕事に変わっていく。同じ仕事をやっているにもかかわらず、楽しさや達成感が全然違ってくるのです。高橋さんに着想を得るためのヒントをいただきたいなあ。

高橋機械好きだから、ロボットだけでなく車や時計や船や釣り具などいろんなものに興味があります。例えば、何かを買う時、何となく無難で皆が選ぶものにしがちですが、僕はそうならないよう心がけています。明日から急にクリエイティブでイノベーティブな人間になれと言われても難しいと思うかもしれませんが、日頃からコマーシャルやECサイトのお薦めでなく、自分の感性で見て面白いと感じたものを選ぶことを習慣づけてみると、自然と創造的なマインドが育ちます。

小川ありがとうございます。ロボットでは決して代替のきかない仕事をするには、絶えず自分の器を磨かなければなりませんね。これから社会人になる人には、やはり目標を持ってほしい。現状に満足する人を会社がどうすることもできません。目標があれば実現に向けて努力できるし、それが仕事のモチベーションにもつながります。今日は長時間にわたってありがとうございました。

PROFILEプロフィール

  • 小川 雲龍UNRYU OGAWA
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    1960年生まれ。中国遼寧省出身。西安交通大学を卒業後、国有企業でテレビのブラウン管の開発に携わる。1992年、東北大学工学部に客員研究員として留学し、プラズマソースを研究。翌年から大学助手として勤務。
    1997年国際電気株式会社入社(現KOKUSAI ELECTRIC)、2011年日立国際電気(現KOKUSAI ELECTRIC)電子機械事業部富山工場副工場長、2017年 執行役電子機械事業部副事業部長を経て、現在KOKUSAI ELECTRIC常務執行役員。

  • 高橋 智隆TOMOTAKA TAKAHASHI
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    1975年生まれ。2003年京都大学工学部卒業と同時に「ロボ・ガレージ」を創業し京大学内入居ベンチャー第一号となる。代表作にロボット電話「ロボホン」、ロボット宇宙飛行士「キロボ」、デアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。ロボカップ世界大会5年連続優勝。米TIME誌「2004年の発明」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定。開発したロボットによる4つのギネス世界記録を保持。東京大学先端研特任准教授、大阪電気通信大学・福山大学客員教授等を歴任し、現在(株)ロボ・ガレージ代表取締役、(株)MarineX取締役、グローブライド(株)社外取締役、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問。