特別企画 特別企画 夢を抱き、創造力を 発揮し続ける人にとって ふさわしい会社に
 夢を抱き、創造力を発揮し続ける人にとってふさわしい会社に

あらゆる産業がグローバルな大競争時代に突入した現代。企業が生き残るには、付加価値の高い独創的な技術とサービスの提供が鍵となる。加えて、人口減少や超高齢化社会に置ける人財確保と活用、DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応など課題が山積する中で、今、製造業に、そこで働く人に求められるものとはーー。社会と人の現実を見据えながら、小説を通し現代人へ前進する力を届ける作家・池井戸潤氏に、KOKUSAI ELECTRIC社専務取締役・神谷勇二が尋ねた。

的確かつスピーディーな経営判断で、
大競争時代を生き抜く

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神谷池井戸さんの作品の大ファンなので、今回、お目にかかれて感激しております。『半沢直樹』シリーズをはじめ、たくさんの小説を読ませていただきましたが、スポーツが好きな私は足袋製造工場とマラソン選手の再生を描いた『陸王』や、企業内ラグビー部の再建をモチーフにした『ノーサイド・ゲーム』がとくに強く印象に残っています。ドラマも毎週、放送を楽しみにしていました。

池井戸ありがとうございます。僕は半導体については門外漢で、そもそも半導体というもの自体がよくわかっていないんですが……。

神谷物質には電気を通す「導体」と電気を通さない「絶縁体」がありますが、半導体はその中間的な性質を持った物質。パソコンやデジタルカメラなどの中に組み込まれた集積回路のことです。半導体は微細化が進み、膨大なデータ量が求められるようになってからどんどん構造が立体的になっている。たとえるなら、平屋の一軒家だったのが高層マンションのように何十何百と層を重ねていて、当社はその一層一層に均一な膜を張る成膜装置を開発し製造しています。

池井戸新聞などで読んでいると、半導体は今、とても需要が高いんですね。ビットコインにも使われているとか。

神谷ええ。AI、IoT、5Gをはじめ、あらゆるジャンルの産業で半導体が使われていますし、金融だとフィンテックでも半導体は重要な部品です。最近では、半導体不足で自動車工場の製造ラインが止まってしまうといったようなことも頻発していて。

池井戸儲かっていますね!

神谷ハハハ! 残念ながら日本は今、半導体の製造においてはアメリカやアジア諸国に遅れをとっていますが、我々のような半導体製造装置や半導体の材料を生産する産業は、今でも世界で競争力が非常に高いんです。材料では世界50パーセント以上、製造装置では40パーセント以上のシェアを占めていて、当社の成膜技術も米国の市場調査会社による顧客満足度調査で23年連続ベスト10の評価をいただいております。また、当社は2018年6月に株式会社日立国際電気から分社・独立したのですが、分社化以降、売上・利益は大きく増加しています。

池井戸すばらしい。

神谷私は株式会社日立製作所に1981年に入社しまして、それからほぼ一貫して経理、財務畑を歩んできました。日立国際電気時代以降は事業再編やM&Aに携わっておりましたので、『下町ロケット』の佃製作所の特許戦略や訴訟の話、M&Aにまつわるエピソードなどは、事業や経営の面でも非常に参考になりました。

池井戸『下町ロケット』は、編集者と飲んでいたときに、下町にある中小企業の技術だけでロケットは作れるのか? という思いつきが発端でした。そこで、ロケットに携わっている会社の社長さんに話を聞きに行ったところ、「無理ですね」とあっさり言われた。ただ、特許があるならいけるかもしれないと……小説はだいたいこんなふうに、酒の席での与太話から始まるんです(笑)。しかし、世の中の動きからすると、今後も半導体の需要は増える一方ですね。

神谷そうですね。最先端の半導体は国際的にも安全保障上の戦略物資になるほど重要度が高まっていますし、当社の扱う成膜技術もますます高機能化しています。そんな中、2019年6月にアメリカの半導体製造装置業界最大手であるアプライド・マテリアルズ社と経営統合の契約を締結し、現在、関係各国の承認待ちです。一社だけで研究開発投資に取り組むのが困難な中、プレゼンスの大きな会社と一緒になった方がよりシナジーが出ると期待しての決断です。
ただ、承認に時間がかかっており、経営統合の成立が不透明な状況ですが、万一不成立になっても心配していません。統合作業の過程で当社の強みも再認識できましたので、すぐに次の手を打ちます。

池井戸それはきっと正しいご判断でしょう。設備投資をできる資本力がないことには、厳しい競争を勝ち抜けないでしょうし……。僕はM&Aの仲介を手掛ける会社の社外取締役をしていますが、経営者の判断力が優れている会社は必ず生き残るんですよね。世の中が、経営環境がどうだこうだということはあっても、この先どうなるか、もっと先はどうなるのか、それを見極める経営判断がスピーディーで的確な会社は、やはり強いと感じています。

神谷そうですね。大競争時代、常にお客さまに選んでいただける企業であるためには、第一には技術力、そしてお客さまの悩みや困りごとを吸い上げて対応するソリューション力。そして、池井戸さんがおっしゃったように、それをいかにスピーディーに行うか……。市況もありますが、分社化して以降、経営のスピードが速まったことが功を奏していると感じています。

編集部注:3月29日付け当社ホームページにて、アプライド・マテリアルズ社との株式譲渡契約の期間満了を発表

個人の夢が、会社の目標とつながる幸福

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神谷……という当社の話ばかりでは恐縮ですし、読者としてはいろいろ伺いたいこともございまして(笑)。池井戸さんは『下町ロケット』や『陸王』などで、ものづくりの現場を描いておられますが、銀行員時代に大田区の支店に勤務されて、町工場の現場をご覧になった経験が役に立っているそうですね。

池井戸経験といっても、もう20年くらい前のことですが、どの工場でもすごく真面目なものづくりが行われていたのを覚えています。精緻な旋盤作業とか、プラスチックの成型とか、手先が器用で、納期までに期待された水準を満たすものをきっちり納めていて。

神谷作品から、その様子が伝わってきます。当社は富山県の八尾町というところにマザー工場がありますが、富山は地震や台風の被害が少ない地域であり、かつ従業員に多い富山県人の県民性と言いますか、勤勉で真面目な性質が幸いしているのではないかと。当社の現場でも、お客さまからの要望があれば全力を注ぎ、それによって技術力を鍛えていただいたように感じています。

池井戸なるほど。ただ、僕が当時受けていた印象では、真面目なものづくりはされていても、新しいものを生み出すところにまで手を広げている会社は少なかったように思います。ものづくりは得意でも、次の時代を拓くようなクリエイティブなことが出来ているかというと、残念ながらそこまでは手が回らない会社が多い。高齢化が進むと、せっかくの技術の継承も困難になりますし、そうなると先行きもなかなか……。

神谷おっしゃる通りですね。当社にとっても、現業分野での高齢化による技術継承は大きな課題で、現在はDXを活用してのプロジェクトに全社で取り組もうとしています。VRやAIを活用して技術を映像メディアなどに残すことで、人から人への直接の継承ができなくても保存、再生することができるように。あとは、やはり開発力ですね。当社が属する半導体業界は研究開発投資が企業としての生命線ですので、国には是非、研究開発の優遇制度や投資減税などをさらに拡充するようお願いしたいと思っております。

池井戸本当にそうですよね。それなのに目下、国会で話し合われていることといえば、7万円の接待がどうとか……。今、政界が舞台の『民王』の続編を書いているのですが、政治の人財不足は深刻で、日本はもう国に何とかしてもらうという発想は捨てて、優秀な民間に頼ったほうがいいのではと感じています。人財活用についても同様ですね。大学院を出ているのに就職がないという今の状況はやっぱりおかしくて、きっちり勉強して専門知識を持つ人が評価されるという当たり前のことができないと、この先、大学に残って専門的な研究に取り組もうという人は出てこないでしょう。将来的には科学分野を含め、あらゆる面で日本の国力が低下するんじゃないかと心配しています。

神谷人財については、当社も危機感を持っております。開発能力の高い、意欲的な人財を採用しようと思っても、若い世代の絶対数が減少している中、中央の大手企業との採用競争もあり……。現在は富山県をはじめ近隣県の出身者が多い当社ですが、今後は北陸地方だけでなく、外国人も含めて多様な人財を採用していきたいと思っております。

池井戸今やどこに会社があるかは、あまり関係ない時代になりましたよね。国内、海外、ネットがつながればどこでも仕事はできるし、さらに言えば、才能のある人たちをひとつの会社が囲い込むことも、今後は難しくなるんじゃないでしょうか。若くて優秀な人たちは、自ら起業する人も多い。既存の会社があまり魅力的に映らないとすると、採用も働き方も柔軟にしなければ人財は集まりません。企業の側でも、起業に挑戦することを奨励していて、たとえ失敗してもまたその会社に戻ってこられる制度もあるようですね。

神谷そのように聞いております。

池井戸今は銀行ですら副業がOKだったりするらしいんですよね。僕は銀行員の頃から江戸川乱歩賞を獲って作家になりたいと思っていましたが、今の時代だったら、どこかの支店長をやりながら作家をやるという二足の草鞋を履けていたかもしれません(笑)。

神谷お勤めされていていた頃から、夢をお持ちだったんですね。

池井戸夢は基本的には個人的なものなので、会社の現実的な目標と個人の夢が一致することはまずないんでしょうけれど……。最近、埼玉県にある藍染めの会社に取材で 写真を撮りに行ったんです。30代くらいの若い社員の方が「俺たち、いつか日本一の藍染工場になりますから」と言ったことに、非常に感銘を受けました。小さいけれど、ここはいい会社だなと。会社の目標を自分の目標として語れるって、すごく幸せなことじゃないでしょうか。

創造は「粘り」と「遊び」から生まれる

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神谷素晴らしいですね。当社はアプライド・マテリアルズ社との経営統合を決断した際、「Embrace new challenges on the global stage」というスローガンを設定しました。「世界を舞台に挑戦を楽しもう」という意味なんですが、広い世界で挑戦を楽しめる人を応援したいと。当然、挑戦には失敗がつきものですが、一度の失敗で折れることなく挑戦し続ける人を、とくに評価したいと思っています。

池井戸「粘り」は大事ですよね。僕にとっても、作家になる前、自分の小説を書く力がどれほどのものであるのかすらわからない中で何年も書き続けたことが、今も力になっていると感じます。実は『ノーサイド・ゲーム』も、一度は断念しかけたんですよ。

神谷えっ!

池井戸いったん書き上げたものの、どうにも面白くない。どうして面白くないのか、その理由を考えたんです。すると、「One for all, all for one(ひとりは皆のために、皆はひとりのために)」というフレーズに象徴されるような、ラグビーをことさら美化するかの精神性にピンときていなかったということに気づきました。本当に自分が納得していなければだめなんだと、粘って粘って書き直したのが、あの作品なんです。

神谷そうだったんですか……。実は私も若い頃、作家になりたいと思ったことがありまして、大学時代に同人誌に1、2作書いたことがあるんですが、3作目は1枚も書けませんでした。だから池井戸さんが毎作毎作、湯水のようにアイデアを湧かせておられるのが本当にすごいなと……。やはり、ずっと小説のことを考えていると、次に書くものが自然に浮かんでくるんでしょうか?

池井戸そうですね。考え続けるということは、仕事としてすごく大事なことです。そして、アイデアはいろいろ出てきますが、小説のテーマになるためにはいくつかの条件をクリアしないといけない。まず第一にオリジナリティーがあること、そして、今までにない新しい小説であること。最後に、それが豊穣な物語になることです。足元の小石を拾い上げてそれに意味を見出すようなタイプの小説も世の中にはありますが、僕が書こうとしているエンタテインメントには、もっとダイナミックな力がなければと考えている。その3つの条件が揃ったアイデアだけが、最終的に小説になっていきます。

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神谷なるほど。池井戸さんとしては、今の夢というか、今後5年、10年の目標を、常に定めていらっしゃるんでしょうか。

池井戸そうですね。書いた作品が売れることは僕にとってすごく重要な目標ですが、一方でただ売れるだけではだめだと思っています。僕の小説はこれまでテレビドラマや映画にしていただきましたが、今後はそこに、今までにない形の表現を付け加えたくて。

神谷私としては、『ノーサイド・ゲーム』の続編をぜひお願いしたいと思っていたんですが……。

池井戸フフフ。続編を書くことは、工場で旋盤を回したり、プラスチックの成型をしたりするのと同じなんです。でも、今までにないものをやるとなると、そこには新しい発明が必要になる。日々いろんなものを見て研究していますが、「こんなものが受けているから、これを」というマーケットインの発想だけでもだめで、最終的には「これが面白いと思うんだけど、どうですか?」という、プロダクトアウト型の提案になっていなければならない。そこが難しいところです。

神谷新しいものを生み出すために必要なこととは?

池井戸働く人にしても経営者にしても、目先のことだけで一日のすべての時間が消費されてしまうような状況からは、新しい発想は絶対に生まれないでしょうね。「ちょっと遊んでみるか」という余裕がないとアイデアは出てこないし、そんなことをやっていると上から叱られるような会社では、きっと難しいんじゃないでしょうか。

神谷そうですね。当社としては、現状に満足しないで常に新しい目標に向かって挑戦し続ける人を粘り強く応援し続けたいと思います。挑戦し続けるからこそ夢は叶うわけですし、そのための失敗も、ノウハウの蓄積につながりますから……。池井戸さんの『下町ロケット』や『陸王』を読んで熱い気持ちになれる方なら、きっと当社で、ものづくりの醍醐味を味わっていただけるんじゃないかと。

池井戸ありがとうございます。若く優秀な方たちが身を置くのにふさわしい場所に、KOKUSAI ELECTRIC社をはじめ多くの会社がなっていくといいなと思います。

PROFILEプロフィール

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    神谷 勇二YUJI KAMIYA

    1957年愛知県生まれ。81年、株式会社日立製作所入社。クウェートの電力輸出プロジェクト、英国都市間高速鉄道計画1兆円プロジェクトなどを経理面からサポート。2014年4月、株式会社日立国際電気経理本部長に就任。15年、同社執行役兼経理本部長を経て、18年より株式会社KOKUSAI ELECTRICにて現職。

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    池井戸 潤JUN IKEIDO

    1963年岐阜県生まれ。98年、『果つる底なき』で江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2010年、『鉄の骨』で吉川英治文学新人賞、11年に『下町ロケット』で直木賞を受賞。『民王』『七つの会議』『空飛ぶタイヤ』『花咲舞が黙ってない』『アキラとあきら』など作品多数。単行本最新刊は『半沢直樹 アルルカンと道化師』。